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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
304/350

質疑

 皇帝(ツァーリ)一家の赤子。

 その長子を、ただ一人であやす者。


 ――そこには、ふたつの可能性がある。


 ひとつ。

 単純に、彼女が皇帝一家の旅行に帯同している可能性。

 これはまだいい。

「戦時下に一家で旅行か」との誹りは免れないものの、まだ説明がつく。

 乳母代わりに重用されていると言う、それだけの話かも知れない。


 けれども。

 もうひとつの方であれば、ひどく厄介な話になる。


「答えたくないなら、いま言う必要はないのだけど」


 装いながら、僕は探る。


「一家総出の旅行だなんて、ずいぶん余裕だね」


 この近くに、皇帝はいるのか。

 あたかも、その探りが不必要であるかのように。

 誹謗ではない。嘲笑でもない。

 そうであって欲しいとの、それは願望。


「――まさか」


 返ってきたのは一語。

 あまりにあっさり、打ち砕く言葉。


「あなたも分かっているでしょう――この時期に能天気になれるほど、あの皇帝(ツァーリ)は愚鈍じゃない。血の日曜日から半年も経っていないんだから。今もまだ、ペテルブルク(ピーテル)で大わらわでしょうね」


 決して愚かではない。

 その評し方が、今は少し呪わしい。


「愚鈍でもない、けれども――」

「……傑出してもいない」

「ええ」

「ひどい言い草だ」

「事実よ。ただの事実」


 あくまで淡々と、その魔女は続ける。


「強行に出るでもなければ、貴族たちの既得権に切り込むでもない。それなりに理想はあり、けれども思い切り手をのばすでもない。頭はよくとも、言ってしまえばそれだけの――つまらない人間」


 そうだ。

 あの皇帝(ツァーリ)は、決して愚かではないのだろう。

 本当のところ、それは分かっている。

 ――ならば。

 ならばなぜ、赤子を任せているのか。

 目の前の魔女に、ただ一人きりで。


 決まっている。

 彼女こそが、この子の運命を握っているからだ。

 呪われた王家の病。

 まだ不治であるはずの、血の病を得ているこの子の。

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