報酬
2勝3敗。
数字だけ聞けば善戦だろう。
あくまで、数字だけ聞けば。
彼女の宣告に驚きはない。代わりに、奇妙な納得があった。
僕からの一撃を、そのまま突き返されたとの納得。
「ジョーカーは」
追い打ちのように、短い声。
「あなたの手札に有るの、それとも」
「無いよ。僕の手札にはね……つまり、提出できない」
13種類のトランプ。
6枚と6枚の手札。
そして伏せ札。
指定した札が相手の手にないこと。
伏せた札を当てること。
この2つは微妙に違う。
そして今回は、提出できなければ負けと決めていた。
両者は違う。違うと、そう知っていたはずなのに。
そこから一歩、踏み込めはしなかった。
最初に、提出できないはずの札を指定しておきながら。
その事を見越して、ルールを言えたはずだ。
そうした所で……おそらくは、そのルールでも承知していただろう。
目の前の魔女は。
「君の考えた通りだ。指定した札を提出できなければ負け。そこまではいい。でもその指定について、ルールで縛るのを怠った。だから」
振り絞るように、言い切る。
「これは……僕の甘さだ」
「ふうん――」
感心した様子で、彼女。
「泣きごと、言わないんだ」
「……まさか」
ひと息の間。
「先に仕掛けたのはこっちだ。 もちろん、 思ったよ。ギリギリの方法。そう考えたそれを逆手に取られたんだ、こちらが何か文句を言う資格はないよ。でも」
これはだから、せめてもの意地。
「でも……せめて、泣き言を言うだなんて思わないで欲しい。そこまで、見下げないで欲しい。僕からは、それだけ」
初めて、正面を見た。
瞬間、視線と視線が重なる。
こうやって交わすのは、いったい何年ぶりだろう。
「――教えてあげる」
「……え?」
「敢闘賞よ。もちろん、あなたが勝ったとき程じゃない」
「この子のことを、かい? 父親のことじゃないなら、何を」
静かに、僕は制される。
そうだ。きちんと話すには、落ち着かねばならない。
平静を取り戻し、次の言葉を僕は待った。
「この子の、母親のこと」




