試合10
驚きはなかった。
怒るでも諦めるでもない。
ただただ、目の前のありようを受け入れた感覚。
「知ってたんだ?」
「ついさっき、ね」
互いが席を外した時間。
確かに僕は、カウンターで新たなトランプを借りた。
2枚のジョーカーの入った、アメリカ式のトランプを。
その後は? 僕は先に部屋へ帰ろうと、急ぎそのまま――
「そうか……調べたんだ?」
「ええ。あまり時間はなかったけど、何か借りていたのが目に入ったから」
僕が新たに借りた、そのトランプの特徴。
借りた僕は、礼を言い引き返した。
礼だけしか、言いはしなかった。
一切何も。口止めしなかったのだ。
そう、聞き出すのは容易かっただろう。
たとえば、もう一組同じものが必要になったとでも言えばいい。
「なんとか間に合ったわ――もっとも、仕掛け札の名前までは聞けなかったけど」
静かに、手札から一枚が差し出され。
人差し指、中指、親指。三本の指で、札はめくられる。
白黒の図柄。
とがった帽子をかぶり背を丸め、笛を吹く小男。
間違いなくジョーカー―その一枚だった。
僕の入れた、道化の札。
「……振り出しって訳だね」
「いえ」
あくまで静かに、魔女。
「私には一度、指定する権利がある――ただ一度だけ、指定する権利が」
「……当てる自信があるって訳かい。たった一回で」
驚きはない。ただ少しだけ、恐れはあった。
何を飲まされるのかと言う、薬を前にした小児のような怯えが。
首を横に振り、魔女は言う。
「一度で十分」
淡々と、ただ事実を語る声で。
「単なる事実。純粋に、それだけの話」




