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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第一部】 1894年、グルジア
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西暦

 ロシア帝国、グルジア。

 ロシア語専攻の僕にとってその名は、馴染みがあるどころではなかった。

 帝国西端にして、黒海に面した地。

 東西交流の要所にして必然、しばし戦場とも化した土地。

 何より、20世紀ロシアを支配した魔女、ジョセファ・スターリナの出身地。


 いや、余計なことを考えてる場合じゃない。

 僕が事故に遭ったのは日本だ。となるとここも、日本のはずだ。

 けれども。では目の前、女の子が話している言葉は何だろう。

 僕の知る限り、留学先でしか耳にしたことがない発音(プリズナシーニェ)

 帝国とともに版図を広げ、幾多の興亡を経てなお残された共通語(リンガフランカ)

 英語とも日本語とも違うその言葉は、ロシア語でしかあり得なかった。


「グルジア……いや、ありがとう(スパシーバ)


「大丈夫みたいね」


 混乱しつつ、僕は気付く。


「……ごめん、忘れてた。僕の名前は」


 どう答えたものか。少し悩み、学内でのあだ名を口にする。


「……ユーリ、ユーリ・アリルーエフ。きみの名前、聞いていいかな?」


「ジョゼファよ」


 片目をつぶり、彼女は言う。


「ジョゼファ・ヴィサリオノヴィチ・ジュガシヴィリ」


 僕の記憶が確かなら。

 それはジョゼファ・スターリナの本名だった。

 かつて全ロシアを支配した、血塗られた魔女の。

 そう、あくまでかつての話だ。

 けれどもこのときの僕は、確信にも似た奇妙な手触りを覚えていた。


「たびたびごめん、今は何年かな。いや、西暦の話なんだけど」


「西暦? あ、教会歴のことね。ええっと」


 指を折り、数をかぞえ。


「1800……1894年ね」


 彼女、ジョセファは言った。

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