順序
9分足らず、それが残る猶予だ。
短さを嘆いても始まらない。
僕はもう、その条件に頷いてしまったのだから。
――3分前。
僕は無理矢理、そう仮定する。
相手が3分前に来るとする、ならば実質の残りは?
あと6分、いや5分50秒。
そこまで考え、ようやく思い直す。
それは今、考えても仕方ないことだ。
いくら考えたところで答えの出ることではない。
あの魔女の行動は、僕に制御可能か? 否。
ならば手をつけるべきは、制御可能なこと。
つまるところ、僕自身の行動でしかない。
5分半でとり得る行動。
ふざけた観察力を持つ、あの魔女とのババ抜きまがい。
それを少しでも有利にすること。
ならば何がしか、やる他にないのだ。
単なる思いつきを、実行に移すしか。
際どいとの自覚はある。
その際どさを、どうギリギリの線上に持っていくか?
残り5分20秒。
いや、まずは決まっている部分から動くべきだろう。
部屋を出、小道具を借りる。まずは確定している行動からだ。
歩きながらでも考えることは出来るのだから。
カウンターへの行きやり取りし、ここに戻る。
ざっと1分、余分に考えられるはずだ。
いちど部屋を出、カウンターで望む品を申し出る。
新たなトランプを一セット。
水と氷と紹興酒、そしてグラスを2つ。
乗せるお盆と手ぬぐい、台拭きも忘れない。
「――ありがとう」
短く伝えて、その場を去った。
足早に部屋に戻り。
空想に過ぎないそれを、僕は実行に移す。
まずは卓上を片づけ、ひと通り台拭きでぬぐう。
元からよく手入れされているのだろう、清掃はひと拭きで終わった。
卓上にグラスを2つ置き、左手で酒の瓶を――。
その最中に、魔女はやって来た。
すやと眠る、赤子を片脇に抱えて。
「――お待たせ」
「早かったね」
マイナス2秒、すなわち残り2分58秒。
ほとんど予想通りの時間に。




