9分53秒
10分間。
それが僕に与えられた時間だった。
より正確には、残り9分と53秒が。
部屋には一人、ただ一人きり。
それもあと、9分45秒のことだ。
艦内での日常任務で、制限時間を切られるのには慣れている。
この体内時計にそう狂いはないはず。
そこまで考え、僕は思い直す。
――いや違う。
――普段なら、こう考えるのに時間はかからない。
――僕はいま、とても冷静さを欠いている。
その自覚が、煮えていた頭に手を差し伸べる。
欠いた冷静さ、
取り戻すため、
何かきっかけ、
いつも通りの、
「――数だ」
ようやく、僕はたどり着く。
いつも通りだ。
いつも通り、数を数えればいい。
与えられた時間の計測を、頭に染み付いた感覚で。
9分30、とんで7、6、5、4秒。
やがて、時間の歩みが戻る。
僕の頭が、平常を取り戻していく。
「……どうすればいい?」
ようやく声が出せた。
いや、漏れたというのが正確かもしれない。
けれども、ひとまず脱しはしたのだ。
独り言さえ発せない、そんな状況からは。
落ち着きかけた頭に、僕はあらためて警告を送る。
今の状況は、ただ脱しただけだ。
思い直せ。
今は、もっと慌てるべきだ。
あと9分12秒。
平熱のまま、慌てねばならない。
何をすべきか、慌てて考えろ。
「――でないと」
でなければ。
今よりもっと、難しくなるはずだ。
まぎれもない、僕にとっての脅威。
まもなく目の前に現れるであろう、彼女に抗うには。
僕の体内時計が正確であるならば。
そしてあの魔女が、時間通りに来るならば。
それはちょうど、9分後のことでしかない。




