試合6
「数字をひとつ指定する権利、か」
その内容を、僕は噛みしめる。
「大仰だね」
「ただの事実よ。権利にして義務、なぜなら」
一拍だけ間を置き、告げる。
「あなたが指定しないと、ゲームが進まない」
「気が早い。でも確かに、事実ではあるね」
「ええ。もっとも――そう急かす気はないけれど」
「……その言葉は、素直に受け取っておくよ」
並べていない手札を見ながら、僕は考える。
いや、考える必要なんてない。
一手目は、ただ選ぶだけでいい。
何一つ考えず、札を。
――いや、違う。
その事に、やっと僕は思い至る。
ヒントを、僕は拾い損ねたのだ。
守るだけでは足りないのだと。
無論、あるかどかは分からない。
けれども、もし何か、彼女に癖があったなら?
機会ひとつを、僕は失ったのだ。
我が身を守ることにかまけて。
――甘い。
たびたび言われてきた言葉が、胸を蝕む。
悔やんでも仕方ない、そのはずなのに。
「迷ってるみたいね」
彼女をおもむろに、1枚の札を手のひらに握り込む。
こちらから伏せたまま、そのままテーブルに手を置いた。
「……何のつもり?」
その意を分かってはいる。
既に、分かってはいた。
これはだから、ただの確認でしかない。
二人の見ていることが一致しているかどうかの。
「見ての通りよ。当てられなかったなら、この札を表返す」
つまり、だ。
予告しているのだ。
僕が外すことを。
それだけではない。
何を指定して、外すのかを。
「――っ」
挑発。
そう分かってはいる。
「Jっ」
「ハズレね」
裏切ったのは僕の口、いや頭か。
いずれにせよ、指定はなされた。
もはや取り返しはつかない
彼女が札を返す。
その数字は――
……その間のことは、よく覚えていない。
「やっと――追いついた」
静かに聞こえた、その声に。
4ゲーム目を落とした事は、よくよく覚えている。
僕 2ー2 ジョゼファ




