試合5
あとたったの一勝。
むこうは二連勝するしかない。
けれども、有利だとはとても思えなかった。
それはあくまで、数字の上でしかない。
見抜かれたのが手癖だけ。
そんな保証は、今どこにもないのだから。
自分に言い聞かせながら、4ゲーム目の手札を配る。
クラブの絵柄が13枚、そこにあるはずだった。
伏せ札が1枚。彼女に6枚、そして僕に6枚。
きちんと13枚であることに、どこか安堵を覚える。
手札:98KQ76
そのまま手元でめくり視線を走らせ、頭の中で並べ替える。
手札:6789QK
少なくともこれで、手元からは読み取られる事がない。
ともあれ、ようやくのスタート地点だ。
「――いい心がけね」
あくまで淡々と、ジョゼファは言う。
「学びをすぐ実行に移す。それだけでも随分、殊勝なこと」
あくまでも、生徒の健闘を褒め称えるように。
それはすなわち、及ばなかったということ。
健闘とはあくまでも健闘でしかない。
「今度はあなたの番から。だから」
さも当然のように、告げる。
「一発で当てることね」
それは宣言。
一回で当ててみろ。
さもなければ、もう当ててしまうとの。
「……もう一回、当てればいいんだろう」
やっとのことで、僕。
「二回は当てた。あと一回だけだ」
かすかに、彼女の頬が動く。
見下すでも嘲るでもない。
冷ややかながら、それは笑み。
その可能性に、僕はやっと思い至る。
「……わざと? まさか、わざと負けた?」
3本先取での意図的な投了。
それはほとんど、僕の理解をこえる。
だが、とも僕は思う。
だが、だ。彼女なら、やりかねない。
目の前にいる、魔女さながらの彼女なら。
僕の問いに答えはない。
ただ淡々と促される。
「――あなたの番よ。あなたには」
そう、目の前の魔女は宣言する。
「数字をひとつ、言う権利がある」




