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安堵
S Fめいた、僕の背景。
ともあれ僕は、彼女へ話すことに決めたのだ。
僕にとっての過去を。すなわち、これから起こるであろう未来を。
もちろん、不安がない訳じゃない。
ここでの失敗はおそらく、途方もない代償を意味するのだから。
わずかばかりの蓄えがあるとは言え、よそでやり直す気力はそうそうない。
人見知りの僕が、今も何とかやっていけていること。
たぶんそれだけ、僕を気遣ってくれていると言うことでもあるのだろう。
彼女にしろ、村の人たちにしろ。何と言おう、いろいろと忍びないことだ。
「一応、念のために言っておきたいのだけど」
「?」
「何を話しても変わらないでいてもらえると、僕としてはうれしい」
おそるおそる、子供のように言う。
「ええ」
迷いのない返事と。
何だそんなことかと言う笑顔に、少しだけ安らぐ思いがした。
「……ありがとう」
これは素直な、僕の心の底から出た言葉だったように思う。
「それじゃ、まずは午後の作業を終わらせましょう」
「うん」
まぎれもない安堵。
それとも僕は、このとき疲れ切っていたのだろうか。




