試合4
立ち上がりかけ、辛うじてこらえる。
過剰な反応を示せば、それこそ負けたも同然だ。
指定を告げるタイミングが一瞬だけ早かった。
あれはたぶん、完全に看過したがゆえの間。
……おそらくは僕にしか気づけない位の。
「よくこらえた、と言ってあげる」
決して称える口調ではない。
ギリギリになって、宿題を出してきた子供への言葉。
「褒めてあげるわ、ひとまずは」
「大声あげると、その子が起きちゃうからね……」
かたわらの安らかな寝顔を見ながら、僕。
仮に赤子をあやすとなると、ゲームは中断だろう。
僕はただ、この余興に付き合って頂いている立場なのだ。
興が削がれれば、そのまま途絶もあり得る。
と言って泣く赤子を放置するような状況、それは僕の本意ではない。
ゆえに、意図的に騒ぐ選択肢はない。
たとえ今、どんなに考える時間が欲しくとも。
「――静かにしてても、起きるときは起きるけどね」
肩をすくめ、彼女。そう言いつつ、とがめる口調でもない。
この言い回しに関しては、及第点を貰えたらしかった。
相変わらず、彼女の目はこちらを向いている。
その視線が、ほんの少しずれている気がした。
真向かいに交わされてはいない。
僕の顔ではなく、わずかに下の――。
「手元?」
「――正解」
短い返事。
後はただ、答え合わせだけだ。
「少しだけ、分かったよ」
「何が、と聞いてみるわ」
「考え方がズレてたんだ。このゲームは伏せた1枚を当てればいい。最初の方は運。違う、そうじゃない」
「ふうん?」
「1セットは全部で13枚しかない。自分の手札から相手の手札を推測できる。相手の手札が分かれば必然、伏せた1枚も分かるからね。そして」
歯ぎしりをこらえ、言う。
「――全体がほとんど見えているからこそ、手癖が致命的になる」
ほとんど、強いられた形の告白を。
「Qを指定された僕は安堵する。手札にある、少なくともここでの負けはない。そうして、場に提示する。――右から二番目にある、Qの札を。君の手札にKはない、ならその札はどこか? もし相手が馬鹿正直に手札を並べているなら、一番右端だ。Qの指定、あれは確認だった」
手癖の、念には念を入れた確認。
だから今、僕に取れる選択はこうだ。
「今回みたいに互いの手札が連続してるなら、少なくとも候補を絞り込むのは造作もない――伏せるよ。君の指定に対して、僕の手札を」
そのまま、言葉を続ける。
「第三ゲームは、君の勝ちだ」
僕 1ー2 ジョゼファ




