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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1905年、上海
285/350

試合

「――ありがとう。」


 もう少し早くこうしていれば。

 その言葉を僕は飲み込む。

 真正面から対峙するに、遅すぎるということはない。


 運、実力、あるいは天命。

 言い方はいくらでもある。

 けれども、そこに至る時期もまた、力量の内なのだから。

 そう考えるならば、僕は間に合った方のはずだ。


「じゃあ、ひとまず先攻を決めようか」


 懐から、僕はトランプの木箱を取り出し、テーブルの上に置く。

 箱を開け上から2枚を引き、テーブルの中央でそれを表返してみせる。

 スペードの(エース)、そして2がめくれる。


「Aが先攻で」


 テーブルの上、まずは左右の手の表裏を見せる。

 まだ(・・)何も仕掛けていないとのポーズ。

 2枚を伏せ、左の手のひらに乗せる。

 そのままテーブルの下に持って行き、2枚をシャッフルする。

 ぎこちなくトランプ同士がこすれる音が、静かに部屋へと響く。


 十分にシャッフルしたところで、裏向きのままテーブルに置いた。


「右? 左?」


 このゲーム、先攻が有利なことに疑問の余地はない。

 自分の手札6枚に相手の手札6枚、そして伏せた1枚。

 先手に指定された札を提示できなければ(・・・・・・・・)、後手は何も出来ず負けてしまう。

 それも、6回中1回も。

 ゲームを探る点でも、ここでの決定は重要になずはずだ。


「――その前に、いい?」


「うん?」


「67回」


 一瞬、意味を掴みかねた。


「上はA。先に置いたのは、私から見て右」


「数えてた、てこと?」


 それに答えず、彼女は言う。


「――こう言うのはどう? 私の言い分が当たっているかどうかを、あなたが賭ける。当たっていたらあなたが先攻、外れたら私が先攻」


「……意味があるとは思えないな」


 無論、意味ならある。

 これはだから、ただの強がりだ。


 十中八九、彼女の指摘は正しい。

 ならば僕が先攻を取るには、彼女が当たっている方に賭けねばならない。

 そう選んだ時点で、否応なく能力を再認識させられる。

 では外れている方に賭けたなら?

 見誤ったとの後悔と、後攻という現実が突きつけられる。


 ――そして僕がここまで考えるであろうことまで、恐らくは見通されている。

 これはだから、軽い(・・)揺さぶり。

 前哨戦を仕掛けてきたという、ただそれだだけのこと。


 言うは容易い。

 でも果たしてどれだけの人間が、こうも即座に仕掛けられるだろう。


 本気(・・)との言葉を、僕は噛みしめる。

 胸が躍るとは、まさにこのことだ。

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