試合
「――ありがとう。」
もう少し早くこうしていれば。
その言葉を僕は飲み込む。
真正面から対峙するに、遅すぎるということはない。
運、実力、あるいは天命。
言い方はいくらでもある。
けれども、そこに至る時期もまた、力量の内なのだから。
そう考えるならば、僕は間に合った方のはずだ。
「じゃあ、ひとまず先攻を決めようか」
懐から、僕はトランプの木箱を取り出し、テーブルの上に置く。
箱を開け上から2枚を引き、テーブルの中央でそれを表返してみせる。
スペードのA、そして2がめくれる。
「Aが先攻で」
テーブルの上、まずは左右の手の表裏を見せる。
まだ何も仕掛けていないとのポーズ。
2枚を伏せ、左の手のひらに乗せる。
そのままテーブルの下に持って行き、2枚をシャッフルする。
ぎこちなくトランプ同士がこすれる音が、静かに部屋へと響く。
十分にシャッフルしたところで、裏向きのままテーブルに置いた。
「右? 左?」
このゲーム、先攻が有利なことに疑問の余地はない。
自分の手札6枚に相手の手札6枚、そして伏せた1枚。
先手に指定された札を提示できなければ、後手は何も出来ず負けてしまう。
それも、6回中1回も。
ゲームを探る点でも、ここでの決定は重要になずはずだ。
「――その前に、いい?」
「うん?」
「67回」
一瞬、意味を掴みかねた。
「上はA。先に置いたのは、私から見て右」
「数えてた、てこと?」
それに答えず、彼女は言う。
「――こう言うのはどう? 私の言い分が当たっているかどうかを、あなたが賭ける。当たっていたらあなたが先攻、外れたら私が先攻」
「……意味があるとは思えないな」
無論、意味ならある。
これはだから、ただの強がりだ。
十中八九、彼女の指摘は正しい。
ならば僕が先攻を取るには、彼女が当たっている方に賭けねばならない。
そう選んだ時点で、否応なく能力を再認識させられる。
では外れている方に賭けたなら?
見誤ったとの後悔と、後攻という現実が突きつけられる。
――そして僕がここまで考えるであろうことまで、恐らくは見通されている。
これはだから、軽い揺さぶり。
前哨戦を仕掛けてきたという、ただそれだだけのこと。
言うは容易い。
でも果たしてどれだけの人間が、こうも即座に仕掛けられるだろう。
本気との言葉を、僕は噛みしめる。
胸が躍るとは、まさにこのことだ。




