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揺動
「信じてくれて、正直なところ嬉しいよ」
このひと言は、何気ない言葉のつもりだった。
ただ率直に、信じてもらえたが故の言葉。
「――だから」
「……?」
「――禁止系の言い回しだったから」
その時の僕は、とっさに意味を計りかねていた。
反応しかねた僕に、彼女は続ける。
「"何々をしろ"なら、疑ったかも知れない。でも、しない方なら選択肢はいくらでもある」
淡々と、明確な根拠を述べる口調。
ただただ、単純な足し算を答えるかのような。
「離乳食にハチミツは危ない。仮にそれが嘘でも、私の損害になることはまずない。と言ってここで、出まかせを口にする意味もない。何かしらの誘導である余地は、つまり発言に何か含みのある可能性は、限りなく低い」
一瞬だけの間。
「ゆえに、理屈で言えば、信じるに足りる――これで、納得できた?」
言って聞かせる口ぶりに。
今度はほんの少しだけ、心がざわつく。
「あなたのそのお話、ありがたく受け取っておく」




