賭け
お互いに、精神面では変わりがないのだろう。
変わりがあるのはだから、道連れの方だ。
直接会うことのない数年。
決して短くはない年月だ。
――赤子が生まれ、育つ位には。
小さな背の低いテーブルごし、粗末な木の椅子に座る彼女。
その両腕の中では、子どもが静かに眠っている。
可愛がられている、とひとまず言っていいはずだ。
見る限り、2歳に少し届かないくらいだろうか。
当たり前ながら、一人では出来ることと出来ないことがある。
子どもは、その内のひとつだ。
たとえ彼女が、聖女めいた資質の持ち主でも。
何故とは聞かなかった。
ただ、誰とは聞いておきたかった。
「さっきまで騒がしくてね、ようやく寝付いてくれたわ」
「おめでとう……と言うべきなのかな。誰とかまでは分からないけれど」
「――つまらない人よ」
事もなげに、彼女。
「つまらない、素朴な人。もっとも、あなたと比べると――だけど」
少なくとも、真正面から答える気はないのだろう。
だから言葉が口をついた。
「勝負してくれないかな」
口にした後で。
この言葉は、ひどくもっともなように思われた。
焦燥ではない。怒りとも違う。
なぜもっと早く言わなかったのかとの、奇妙な納得。
「――何の?」
さすがの彼女も、不意をつかれたのだろうか。
こちらの意を図りかねた口調。
それだけで十分、言い出した甲斐があるというものだ。
直接答えぬまま、僕は言う。
「単なるゲームだよ。ちょっとした遊びって奴」
相手の思案は一瞬だった。
「――あなたが満ち足りるなら、受けていい。もっとも――何を賭けるかにもよるけれど」




