表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
275/350

 夜。

 その日の僕は非番だった。

 調理当番のことではない、夜間に海を見張らなくて良いと言う意味だ。


 レーダーもソナーも、この地上にまだ存在していない。

 もちろん、無からそれを錬成できるほど、僕が詳しい訳でもない。

 ゆえに、見張りは目視、人による監視となる。

 言い換えるならば。

 補充の人手は、数合わせでもそこそこ機能する。


 戦力要員に対する、少しでもの疲労軽減。そう頼まれたなら。

 建前は一介でしかない乗組員()が、断れるはずもない。

 その程度のことは、さすがに分かるようになっていた。


 その見張り当番も今夜はない。

 これでよく眠れたなら、言うことはないはずだった。


 20世紀初頭。

 航海中の壊血病は、自然に治るでもない。

 補給に乏しい、海の上の旅路。

 そこに果実も野菜も乏しい以上、必然として病は、時が経つにつれ悪化するしかない。

 そしてこの内出血とあざの鈍痛には、なかなか慣れることが出来ないでいる。


 よく眠れたらなら。

 これでよく眠れたなら、何も言うことはない。

 そうでないから、僕は食堂にいるのだけど。


「――昼間みたいなことが知られてみろよ、世界中の物笑いだぜ」


 テーブル越しに彼、話し相手の青年は言う。

 互いに名乗ったことはない。

 聞けば答えるだろうし、探るののも容易なはずではあるけれど。

 それでいいと、僕は思っている。


「まあ、それはそうかも知れないね」


 確かに、物笑いだろう。

 ありもしない敵影に向けて、派手に大砲を撃ったと来ては。


 けれども。


 物笑いにも背景というものがある。

 勝ち戦の旅路であれば、それは愛嬌で済む。

 勝利には、それだけの強さがある。

 ――艦隊が本当に、勝つことができたならば。


「と言っても、誰かが言い出すとは思えないけど」


 私たちは道化師(クローウン)です、と言い回るようなものだ。

 僕にとっては、ちょっと考えづらい。

 もっとも、彼の方は違う意見のようだった。


「いや、軽いやつはいくらでもだ。おいしい話って奴ができるなら、さ。それに、悪い噂は走る、て言うぜ」


 他愛のない応酬。

 眠れない僕にとって、悪くはない時間。


 ――その日の夜、僕は非番だった。


 あるいは、と僕は思う。

 僕が、比較的に冷静だった、僕が当番であれば。

 あるいは、彼ら(・・)は死ななくて済んだのではないか。

 そして僕らは、汚名を着ずに済んだのではないか。


 その日の夜、僕は非番だった。

 それが幸いと言っていいのかどうか。

 今もって、分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ