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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
273/350

狼煙

 急ぎ室外に出て、状況を確認する。

 左舷甲板から、その様子は伺えた。


 ――それは確かに、交戦ではあった。

 あまりにも一方的な砲撃を、交戦と呼ぶならば。


 着弾した痕跡らしき、わずかな波影。

 敵影はもはや見えない。

 あるいは、もう沈めたとでも言うのだろうか。

 あまりに呆気ない、呆気な過ぎる交戦(・・)


 砲弾の余波で、辺りには火薬の匂いが漂っている。

 発射時の振動のせいか、わずかに石炭の匂いも混じっている。


「――どうして」


 いや、理由は分かっている。

 長引き続ける航海に、足りない物資、はびこる病。

 さらに練度の足りない部隊から、疑心暗鬼を拭い去ることはむずかしい。

 そんな状況で、何がしか、不審なものを見かけでもしたら?


 本当に不審だったのかどうかは、この際問題ではない。

 倉庫に火薬は満載されていた。

 あとの火花は、ほんの僅かで足りるほどに。


 不思議とは言いがたい。

 僕が思ったのはただ、なぜ今なのか(・・・・・・)と言うことだ。


「――両舷か?」


 提督のその声に、僕はようやく、違和感に気づく。

 そのまま駆け足で、右舷から波間を確認する。


「あっ……」


 両舷、の意味がようやく掴めた。


 この船は左右同時に、砲弾を撃ったと言う事だ。

 そうするべき状況とは、敵艦隊に囲まれた時以外ほぼあり得ない。


 ところが、だ。

 囲むはずの敵影は、全く見当たらない。

 と言って、両側の敵を瞬時に沈めるほどの練度はない。

 沈むにも時間がかかることを考えると、ほぼ無いことと見なしていい。


 ――つまるところ、だ。


「誤射、て訳かな……」


 先が思いやられる――もしそう評するなら、ずいぶんと楽観的になる。

 少しだけ遅れ来て、提督もまた事態を確認する。

 僕が把握した程度のことは、無論提督もまた承知のはずだった。


「――ふむ」


 落ち着き払ってはいるものの。

 その表情は、少しだけ苦い。

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