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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
271/350

途上

「馬鹿正直に3万3000km、か――」


 自嘲するように、提督。

 口にして改めて、先の長さに気付いたのだろう。

 僕にとっても、それは同じことだった。


「……全部ではありませんよ、もう2000kmは走ったはずです」


 僕の取り繕いも、どこか虚しい。

 言うなればまだ、たった2000km(・・・・・・・・・・)なのだ。

 ロシアから日本への旅。

 航海はまだ英国の近海、全体の6%に満たない。


 妨害で使えないルート。

 常に揺さぶられて上がらない士気。

 そんな中、どう日本に辿り着くと言うのだろう。

 知っているはずの僕でも、自信がない。


 ――あるいは、と僕は思う。

 あるいは、違う進路(・・・・)になるのではないかと。


 浮かびかけたその疑念を、僕は振り払う。

 その考えは、いかにも危険だった。

 なぜならそれは、まぎれもない消失を意味するからだ。

 僕が抱えているはずの、一番の手札の。


 徒手空拳での、彼女(・・)との対峙。

 そんな状況下でも毀損されない自信など、僕はまだ持ち合わせていない。


「そうだな、後たった(・・・・)3万kmだ」


「……済みません」


「君が謝る必要はない。私の感慨は感慨、事実は事実だ――そして感慨は本来、表に出すものではない」


 表に出すに、ひとまずは値する人間。

 そう言われた気はするものの、僕の気は晴れない。


 不意に垣間見た、心弱りの時。

 そこにつけ込む趣味は、少なくとも今の僕にはない。

 相手が明確な敵でないなら、なおのことだ。

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