途上
「馬鹿正直に3万3000km、か――」
自嘲するように、提督。
口にして改めて、先の長さに気付いたのだろう。
僕にとっても、それは同じことだった。
「……全部ではありませんよ、もう2000kmは走ったはずです」
僕の取り繕いも、どこか虚しい。
言うなればまだ、たった2000kmなのだ。
ロシアから日本への旅。
航海はまだ英国の近海、全体の6%に満たない。
妨害で使えないルート。
常に揺さぶられて上がらない士気。
そんな中、どう日本に辿り着くと言うのだろう。
知っているはずの僕でも、自信がない。
――あるいは、と僕は思う。
あるいは、違う進路になるのではないかと。
浮かびかけたその疑念を、僕は振り払う。
その考えは、いかにも危険だった。
なぜならそれは、まぎれもない消失を意味するからだ。
僕が抱えているはずの、一番の手札の。
徒手空拳での、彼女との対峙。
そんな状況下でも毀損されない自信など、僕はまだ持ち合わせていない。
「そうだな、後たった3万kmだ」
「……済みません」
「君が謝る必要はない。私の感慨は感慨、事実は事実だ――そして感慨は本来、表に出すものではない」
表に出すに、ひとまずは値する人間。
そう言われた気はするものの、僕の気は晴れない。
不意に垣間見た、心弱りの時。
そこにつけ込む趣味は、少なくとも今の僕にはない。
相手が明確な敵でないなら、なおのことだ。




