処遇
「それで、どうします?」
当面の問題はそこだった。
「僕が間抜けにも正体を隠し損ねた、時間旅行者と仮定して、です。提督は、どうされます?」
「――どうする、とは?」
問いに問いで返すのはどうだろう。
そう思いつつ、いま上手くそれを咎めるのはむずかしい。
「そこは、とぼけなくても良いでしょう。もっとも、僕に何が出来るとも限りませんが」
いったい僕に、何が出来ると言うのだろう。
実際は時間旅行どころではない。
僕の境遇は島流しに近い。
10年ほど経てど、いまだ慣れることはない流刑。
「君は私を、そう言う目で見るのかね」
少し傷ついたような顔で、提督。
そんな顔もするのかと、やや意外に思う。
……いや違う、今まで僕が見なかっただけだ。
今まで、うまく付き合えていただけで。
「君は親友がユダヤ人であったら、態度を変える類の人間なのかね?」
「……変える人間もいるのは存じています」
欧州でも、このロシアでも。
「一般論じゃない。これは君に訊いている、君のことを訊いているんだ」
まっすぐ、視線を合わせるように提督。
どうにもここは、真面目に答えるべきなのだろう。
「――いえ」
素直に、僕は否定する。
「率直に言えば、たいへん下らないことだと思います。ある属性だけで以て、何かしら態度を翻すのは。もっともらしい理由なら、後でいくらでも証明できるでしょう。――もちろんこれは、僕が不具の身だからもあるでしょうが」
知らず知らず、左腕に力が入る。
弱々しく、頼りない力が。
「少なくとも、僕は何もしません――僕が、提督の立場ならば」
願望を込めて、言いながら。
僕は第三帝国、伍長閣下のそれを思い出していた。
40年近く後になる、地獄の沙汰を。




