表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
266/350

具現

「ファンタスティカですか……少しだけなら、読んではいます」


 そう言う小説たちを僕は、それなりに読んではいた。

 ヴォネガット、レム、ストルガツキー。

 ――しかし彼らは、この地上にまだ存在すらしていないはずなのだ。

 その全盛期の作品を読み返せる日は、恐らくない。

 手に触れたとしても初期、才能の原石に触るのがやっとだろう。


 ゆえに。

 この時代にあって僕の読書量は、ほんのわずかだ。

 わずかでしか、絶対にあり得ない。


「好ましいものも、そうでないものもありました」


 誰かが生まれてもいないことは分かる。

 けれども、存命の作者の作品の、明確な出版時期をと言われるとむずかしい。

 ましてや、ロシア語への翻訳ともなれば。

 なおのこと、僕の読書はわずかと言うことになる。

 ――それがもはや、提督の前では意味の薄いこととは知りつつも。


「興味本位を承知で言うが、君はどんな代物を作ったのかね? かの本では、ニッケルに象牙、それに水晶とされていたが」


 なるほど、と僕は思う。

 つまりはウェルズ、『タイム・マシン』の話なのだ。


 ……何と説明したものだろう。

 僕は時間旅行者でもなければ、発明家でもない。

 ただ天にいるかも知れない誰かのせいで、過去に飛ばされただけ。

 思案顔の僕に、提督は言う。


「ふむ。ならば深くは聞かないが――より不吉な代物が、実現せぬことを祈りたいものだ」


 残念ながら、それこそ無理筋だった。

 科学者たちは、小説から着想を得てしまうのだから。

 原子核の連鎖的反応を用いた、世界を滅ぼしかねない爆弾を。


 ダ・ヴィンチのヘリコプターも、バベッジの階差機関も後に実用化した。

 そしてついには、原子の火も。ならば、だ。

 タイムマシンにしてみても、実現の道理はあるのだろうか。


 もっともそれは、今から40年以上後の話だ。

 二度の世界大戦に、数多の大陸を荒廃させた核の応酬。

 その不吉さを知る必要もなければ、言う必要もない。

 ――数年以内に 没するはずの人間には。


「――いえ、そこまでのことはないと思います。少なくとも、人が滅びるような事にはなっていません。もっとも、人にとっては僕の存在そのものが不吉でしょうけど」


 そうだ、と僕は思い直す。

 知っていてどうしようも無いこともあるのだと。

 死人に口はない。

 死に行くはずの者にも、おそらくは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ