一歩
「――ともあれ、です」
分からないこととは別に、確定したこともある。
「ひとつ、確かなことは加わりました」
「それは何かね。無論気が向けばでいいが」
「僕の副業が、です」
一瞬の間。
次いでの真顔。
「今さらこう言うのも何だが……女傑直々のご友人に手紙の代筆を、と言うのもやや気が引ける」
なるほど、どうやら間違いないらしい。
彼女が提督に、一目置かれているのは。
――そして、相当に上手く食い込んでいるのも。
歴戦の提督を、ともあれ信じさせる能力。
血縁でも利害でも、ましてや色香でもない。
おそらくは、純粋に能力でもって。
一国の、命運を任されるに足る提督を。
「ご心配なく。その位でしたら、手間賃の内です」
内心、ひとり、僕は笑う。
それはそうだろう。
ますますもって、面白いのだから。
「彼女は十中八、九の確信を持って、提督に手紙を渡したんでしょう。その信頼に答えて頂いた、これはだから、お礼みたいなものです」
あまりにもささやかな礼ではある。
それでも、何もなしには気が済まなかった。
「分かった。受けるとしよう」
「ありがとうございます」
「ついでと言っては何だが――ひとつ、訊ねてもいいかね」
「何なりと」
このひと言は、やや迂闊だった。
「――この船は、いや艦隊は、地球を半周できるのかね」
「ええ、僕の予測でしたら――」
「いや、そうではない」
一度首を振ったその後で。
少しだけ、思い詰めたような表情がのぞける。
「私が聞いているのは、史実ではどうかと言うことだよ」
不意をつかれ、一瞬僕は言葉を失う。
――彼女が? いやまさか。
内心を押し隠したつもりで、僕は答えていた。
「言われている意味が、よく分かりませんが」




