根拠
「提督を信じたいのは山々です。けれども仰る通りだ、この手紙が開けられていないとの根拠は薄い――でも」
確かめるように、僕は言う。
「でも、この手紙の内容によっては、それが分かる」
「――言ってる意味が分からないな。君の考え過ぎにも見えるが」
「正直、僕もですよ。一体どう言う発想なんだか――ひとまず、開けてみましょう。念のため聞いておきますが、送り主は一人でとは指定していない、ですよね?」
「ああ」
「ならこの推測は、今の時点で半分当たってるはずです」
手紙を取り出し、開いてみせる。
冒頭に見えるはжの文字。
すなわち、ジョゼファのJだ。
……内容はそう多くない。
ただ、戻っては来ないかとの誘いだった、とだけ言っておこう。
重要な中身かと言えば、その通りだ。
特にそれが、仲良からざる組織の構成員――僕に宛てた文言なら。
だがこの場合、もっとも重要なのは。
「見せてよかったのかね?」
その疑問はもっともだ。
どうしたものだろう。
わずかに考え、僕は言う。
「ええ。提督を信用して、では信じてもらえないですか」
「秘密の手渡しに免じてでは、説明してもらう理由としてダメかね?」
そう言われると、こちらとしても不義理はしがたい。
秘密を、秘密のままに運んでくれたのは確かなのだから。
「――信用のダメ押し、です」
恐らく、ここまでは間違っていない。
間違ってはいないはずだけど。
「たぶん、最初の取り引きはジョゼファに言われたのでしょう」
「と言うと?」
「代筆の話ですよ……あれは、この中身の代償にしては軽すぎる。釣り合ってない」
しかしながら、単に手紙を運ぶと言うだけなら十分に釣り合う。
そこに、秘密の保持が含まれていないなら。
「――なるほど、私が中を見なかったらしきことは推測できそうだ。君にとって、私の信用は上がったのだろう……だが、何のために?」
その問いもまた、もっともだ。
そして、その問いには。
「――分かりません」
素直に、僕は答える。
その場しのぎの嘘はつかないこと。
長期的な取り引きには重要なことだ。




