開封
簡素な椅子に座り、目の前の机へ、手紙を置く。
提督もまた、次いで備え付けの椅子に腰掛ける。
手紙を挟み、お互い向き合う形だ。
「ナイフ、お願いできますか」
「ああ」
差し出されたナイフを両手で受け取ると、左手に持ち替える。
右手で机の上の手紙をおさえ、左手に持ったナイフで、端から封を切る。
一息に紙を裂く、短く小さな破裂音。
封筒をしっかり固定さえしていれば、僕の左腕でもそうむずかしくはない。
「ありがとうございます」
ナイフを提督に返し、早速、手紙の中身を見る。
目に入ったのは冒頭、жの文字。
「――はは」
なるほど、とようやく思う。
何かの場合も、差出人は察せるとの工夫。
そして一度目に入ったなら、最後まできちんと読ませるとの工夫……彼女らしい書き方だ。
僕は手紙を一度しまい、提督に向き合う。
「どうしたかね? 私が邪魔なら――」
「いえ、そうではないです。ただ、確認しておきたいことがありまして」
「内容にもよるが」
「そう大したことではないです。ただの確認、本当は騒ぐほどの程のことじゃない」
「ならば何故、そう食い下がる?」
これには、少しだけ考え込む。
今この感情を、果たしてどう表したものだろう。
とりあえずの結論を、僕はひねり出す。
「――意地でしょうか。僕の考えが合っているのかどうか、確認できるものならそうしておきたい」
「なるほど――あまりいい癖とは思えないが、分からなくもない。まずは聞こう」
「お気遣いは受け取っておきます。では」
一拍を置き、僕は続ける。
「提督は、差出人をご存知なんですね?」
「無論」
「そして、この中身を知らない」
「それも無論、と言っておこう。もっとも、証拠に乏しいのは認めざるを得ないがね」




