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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
261/350

適者

「――まあ座りたまえ」


「そう言う訳には……」


「壊血病の身、立ち続けるのはキツイだろう」


 なぜそれを、と寸前まで言いかける。

 いや、提督の目からすれば、それなりに見慣れた光景のはずだ。

 部下が、あるいは上司同僚が、長きに渡る航海で患うのは。


「君はまだ若い」


 そう提督は続ける。


「若いと言うことは、経験に乏しいと言うことでもある――この艦隊と同様に」


 言いかけた提督は、僕の腕を目にする。

 そこで、少しばかり見落としに気づいたのだろう。


「失礼、君はそうでもないかも知れない。だが、航海の経験に関してはそのはずだ」


「それは否定できませんが」


「丈夫な者は船乗りになれる。そうでない者は、良かれ悪しかれ淘汰(・・)される。適者生存、とイングランド人は称しているらしいがね」


 そうでもない、心の内で僕は付け加える。

 適者生存とは、環境に適応した者()幸運な者が生き延びることだ。

 もっともこの説の誕生までは、あと60年は必要なはずなのだけど。


 僕が生き延びたのは、能力ゆえだったのだろうか、それとも運だったのだろうか。

 ……いや、二者択一はそれこそ、よくあった誤解でしかないはずだ。

 少なくとも、僕の時代の進化論では。


「ひとまず、椅子に座りたまえ。備え付けが分不相応と言うなら、壁にかけたそれに。いずれにしろ、ここで余計な体力を使うことはない」


「それも経験の内、ですか」


 提督は頷き、言葉を続ける。


「何事も蓄積だよ。何気ない蓄積が、我が身を救う命綱になることもある――もっとも、そんな状況など起こらないに越したことはないがね」


「保険、という訳ですね――そのご意見、ひとまず頂いておきます」


 そうして僕は壁の方、折りたたみ式の椅子へと右手を伸ばす。

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