敬意
僕が彼女の才に、払い得る敬意とは何だろう。
この先、村に来るであろう流行り病を予防すること。
彼女の持つ才を自覚してもらうこと。
そしてどうにか村の外へ、外の世界へ連れていくことだ。
あるいは僕になら、彼女の才をいい方向に活かせるのかも知れない。
秘められた彼女の才と、僕の知識。
あり得たかも知れない、いや、あり得るべき歴史の空想。
こんな考えは、果たして不遜な行為だろうか。
あるいは叶うかも知れない、果てしなき空想。
ただし、それにはまず条件がある。
……叶えるためには何より、今この場でうまく説明しないといけない。
「ちょっとむずかしい話なんだ」
まずはひとつ、僕は切り出す。
「素直に話すと時間がかかる、この場ではちょっと」
一時的な留保と同時に、棚上げにしている訳ではない意志も示してみせる。
これ以上の追求は、この場では恐らくしづらいはずだ。
「……そうね」
一息置いて、彼女は言う。
「どうやら素直に言ってくれる気になったみたいだし。長くもなりそうだし、ね」
「うん。じゃあ、いつがいいかな?」
これは実質、確認みたいなものだ。
この場では無理だけど、気が変わる前。
つまり、“いつ”は早ければ早いほどいい。
たとえば、夕食の時間なんかはどうだろう、
「そうね……今日の夕食どきはどう?」
僕としては、それまでに少し時間があればいい。
何はともあれ、僕には少しでも時間が必要だった。
体制を立て直し、彼女の前で即興を演じずに済むだけの時間が。