選択
「で、どうするかね?」
決断を延ばすでも、急かすでもない。
それは、ごく普通に尋ねる口調だった。
提督にしてみれば、急いで応諾の捺印を押させたいはずなのだけど。
急造の帝国艦隊を引き受けた、壮年の提督。
僕よりはるかに忙しいに決まっている職務。
このやり取りにしても、貴重な時間を使っていると想像はつく。
つまるところこの念押しは、提督なりの好意にほかならない。
まず間違いなく、甘いのだろう。
提督も、おそらくはこう想像してしまえる僕も。
「――開けます」
できる限り静かに、僕は応える。
「その手紙を、今ここで」
「私としては、今ここである必要はないが……確かかね?」
誰にでも分かる最終確認。
中身を把握しているかどうかは、この言い回しでは決められない。
「はい」
一度頷いてから、僕は応える。
「読みます」
「承知したよ。では、渡そう」
手紙は改めて、僕の元へ差し出される。
右手で受け取り、僕はそのことに気づく。
「失礼、ハサミかペーパーナイフはありますか?」
「部屋にならあるが」
提督も、同じことに気付いたらしかった。
「……なるほど、その左手では開けづらいな」
そこまでは気づかなかった、と言う顔。
もっとも、それは気遣いのし過ぎというものだろう。
あらかじめ開封してあったなら、僕の考えはまた違ったものになっていたはずだ。
――あるなら、自分で取りに行きますよ。
そう言いかけて、今度はお互いの立場に気づく。
「ちょっと場所を変えませんか? もちろん、僕一人で行ってもいいですが……」
できれば、一人では遠慮したいところだ。
余計な疑いを持たれる行動など、避けるに限る。
「お互いのためだ、私も行こう」
「では、アルコールはどうします?」
この冗談には、苦笑だけが返って来た。




