表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
257/350

遊戯

 火遊び(・・・)

 思い出すその言葉に、自然、左手へ力がこもる。


 握りしめたつもりの掌は、特に何か変わるでもない。

 そんな力は、とうの昔に失っていた。

 流行り病に身を晒すと決め、我が身を高熱が通り過ぎたあのときに。


 あのときの僕も、あるいは火遊びをしていたのだろうか。


「――どうかしたかね?」


 きっと、むずかしい顔をしていたのだろう。

 考え込んでいると、どうにも険しい顔になる。

 長年のこの癖を、僕はなかなか直せないでいる。


「いえ……いろいろ、むずかしいなと思いましてね」


 その先は言わなかった。また、その必要もない。

 問われもしないことをわざわざ話すのは、余程やましいものを抱えた人間だけだ。

 第一、提督が涙もろいだけの人物であれば、僕は気に入ってなどいないだろう。


「この上その手紙を開ければ、余計ややこしいことになりそうです」


「これ以上にややこしく、かね?」


 提督の不敵な笑みを、僕はかわすことにする。


「……いや、ややこしい、てのは少し違いますね」


「ふむ?」


「結局、この場で問われているのは一個だけです――その手紙を開くかどうかだ。後はおまけでしかない」


 この場での選択肢は少ない。

 問題はだから、決断の話でしかない。

 開けて読むか、それとも他愛のない茶飲み話に移るのか。

 ふたつにひとつだ。


 ……そこでようやく、僕は気づく。

 もう既に、戻れない地点に足を踏み入れていたことに。

 帰還不能点。そんな単語が脳裏に浮かぶ。

 もっとも、これは航空業界用語、つまりまだ存在しないはずの単語なのだけど。


 それでも、追い込まれた気はまるでしなかった。

 僕にしてみれば、心躍るしかないのだから。

 僕の決断が、なにがしかを左右するであろう状況。

 ――いわば“大がかり、世界をあげての悪ふざけ”。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ