誤解
誤解かも知れない。
買いかぶりかも知れない。
あるいは――。
言い出せばキリがない。
けれども。
――たとえそうであって、何の不都合があるだろう?
誤っていたときの咎は、各々が背負うだけのことだ。
恨むでも嘆くでもない。
ただそれだけのこと、それ以上でも以下でもない。
信じ過ぎず、と言って疑いも過ぎず。
つまるところ僕は、かなり気に入っているのだろう。
目の前の、相対する提督を。
「では、本題に入るとするかね」
「ええ」
頷き、僕は先を促す。
「面白い話だと、うれしいですね」
それが興味深い者の話しとあれば、文句の付け所がない。
これはだから、ただの本音だ。
「ああ」
提督も応える。
軽く右目を閉じての、不敵な笑み。
「私にとってはとても面白いことだよ。もっとも、君にとってどうかは分からないが」
「いいですね。その言葉だけで、既に面白い――どうぞ、続きを」
「代筆を頼みたい」
「……はい?」
「忙しいながら、妻子に手紙を出したくてね。その代筆を、しばらくお願いしたい」
そのことは問題ない。
口述筆記であれば対応できなくもない。
問題は、当然その中身が筒抜けになることだ。
そのことはもちろん、提督も承知の上のはずだ。
「それは――」
手紙には必然、身内への近況も入ることだろう。
そのなかには、こちらへのヒントの類も含まれてしまうはずだ。
重要な情報だけぼかすのはむずかしいのだから。
ほとんど一方的に、こちらに有利と見える取り引き。
はっき言えば、その意図がつかめない。
分からない以上、安易に頷く訳にもいかない。
「……僕でなくては、ダメなことなんですか?」
そう返すのが、僕にはやっとだった。
「面白いだろう?」
提督は直接答えない。
ただ、いたずらっぽい笑みを返すだけだ。
「……なるほど」
かろうじて、僕は言う。
「確かに、面白い」




