応酬
「――なるほど、納得しました」
「いやに素直だな」
「とんでもない、いつも素直ですよ。辞書で素直の語を引いたら、用例でユーリ・アリルールエフって出て来る」
「違いない」
軽口の応酬は、次なる話題への備えだ。
と言っても、今の僕にはまだ切り込むようなことはない。
攻防は必然、ほとんど固定されている。
「……もうひとつ、いいかね」
「内容にもよりますが」
「聞いたら戻れなくなるかも知れない」
そこまで言われたら、かえって知りたくなろうものだ。
人払いをする一方で、選択権は僕に預ける程度の問題。
このときの僕は、そう判断した。
「分かりました。では、続きをどうぞ」
提督は、残りの紅茶を一息にあおる。
つられて、僕の器を見る。
コップは、ほとんど空に近い。
調理長は……いない。
そう言えば先程、人払いされたのだった。
「――ちょうど僕のも空っぽです、注いで来ましょう。何にします?」
「あれば、ウォッカを」
もちろん、あることはある。
他の艦を見ても、例の無いことではない。
けれども、このひとには珍しい。
「ウォッカを、ですね?」
甘いかもしれない。
けれども、あるいは酔いにつけ込むことになるかと思うと、あまりいい気はしない。
確かに、疲れにウォッカは効く。時に、効き過ぎてしまうほどに。
「ああ」
「――では、注いできます。少々お待ちを」
コップをふたつ、自由の利く右手で取る。
不意に揺れることも考えると、ひとつずつ運んだ方がよさそうだ。
厨房に入り、まずはポットから、僕の分の紅茶を注いでいく。




