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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
251/350

予兆

「――船内の()について、なのだが」


 噂。

 正直な所、察しかねる話だった。

 順調ならざる道行きゆえか、噂が多すぎるからだ。

 そもそも航海など、まだ迷信を浮力にする行為なのだろう。

 探りを入れる話しぶりに、僕は答える。


「いま駆け引きは不要ですよ。僕はともかく、そちらは忙しいはずでしょう」


 頭役の判断が鈍るのは困りものだ。

 海の上では、ともあれ一蓮托生なのだから。


「では、遠慮なく」


 提督は一口、紅茶に口付ける。


日本人(イポンカ)が当艦隊を見張っているとの噂、あれは君たち(・・・)の仕業かね?」


 君たち。

 真正面から問われたことはない、けれども、互いに察してはいる。

 船内に、穏当ならざる分子がいるのだと。

 それでも、僕らが追放されるでもない。

 なぜか。


 提督の目的:ひとまず、日本海にたどり着くこと。

 僕ら(・・)の目的:帝政ロシアを打倒すること。


 ただでさえ練度の低い艦隊だ、まともな人員が抜けてはたまらない。

 たとえ、少々のマイナスが合ったとしても。

 勝敗はともかく(・・・・・・・)、まずたどり着かなくては話にさえならない。

 ――そう、ゴールが正反対でさえなければ、同盟は成立し得る。


「いえ」


 素直に、僕は首を振る。

 常日頃から嘘をつくよりも、いつもは素直な方が手間は省ける。


「少なくとも、僕の仕業じゃないですね。念のため、確認しますか」


「いや、それには及ばない」


 コップを置き、一息。

 本当に忙しいのだろう、頬もこけて見える。


「ガセなのは分かっている。向こうにしてみれば、欧州から張るのは費用がかかりすぎる」


「なら、気にすることは――」


「そこは意見の相違だ。疑心暗鬼に過剰反応されては、指揮者として愉快ではない」


 過剰反応。

 たとえば、規律の乱れ。

 たとえば、無関係な船舶への攻撃。

 たとえば、耐えかねての反乱。


 なるほど、と僕は思う。

 これ以上の不確定要素は、愉快でないに違いない。

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