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無為
彼女の察しのよさと、ささやかな僕の嘘。
確かに僕は、嘘が苦手なのだろう。
ただしそれは、おそらくは彼女の前に限ってのお話ではないか。
――このまま、誰一人彼女の才に気付かなかったらどうだろう?
――このまま、小さな街の気のいい女として生涯を過ごすのだろうか。
――皇帝が一族諸共に吊されることも、秘密警察が張り巡らされることもないかも知れない。
不敬とは思いつつ、僕は想像をおさえることができない。
……いや違う、そうじゃない。
そもそも、いったい何が不敬だと言うのだろう?
神さまもたいていの人も、ほとんど信じてはいない僕に。
彼女が僕の身を案じていること。
他意も悪気も、おそらくは無いであろうこと。
少なくとも、それだけは信じられる気がした。
神さまもたいていの人も、僕は信じてはいない。
ならば。
信じている人の才に礼を尽くすのも、そう悪くないことなんじゃないか。
そう思ってはみたけれど……いったいどう活かせばいいというのだろう。