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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1904年、北海、ドッガーバンク
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壊血病

 戦争に必要なものは何か。

 日本にいた頃、そう考えてみたことがある。

 別にむずかしい話じゃない、時間つぶしに考えた程度のことだ。


 ――始めるのは簡単だ。

 徴用に足る生産年齢人口、ひとまずの武器。

 士気が要るか否かは、指導体制に依存する。

 たとえば選挙が絡むのなら、必要なこと()あるだろう。

 せいぜい、この程度のことだ――単にやる(・・)と言うだけなら。


 ひるがえって、いま。

 僕は戦争の中にいた。

 単にやっていると言うだけの、戦争のただ中に。


「――あの一人で最後です。お昼、終わりましたよ」


 額の汗をぬぐい、チーフコックに報告する。

 昼下がりの、それが休憩の合図でもある。


「ご苦労、今日は何にするかね?」


「何かあります?」


 これは、提供メニューの他にはあるのか、との意味だ。

 僕達コックは、海上での狩りや釣りの相伴にあずかることもある。

 その頻度はと言うと……無くもない、と言う程度なのだけど。


「まあ、いつものだな」


「――了解です。じゃあ、いつもので」


 僕は頷き、いつもの(・・・・)食事を受け取る。

 そうして僕は、遅い昼食をとる。


 メニューは粗末なものだ。

 乾パンに干し肉、コップ半分の水。

 わずかな量はもちろん、満腹の証ではない。

 このメニューでは、食欲の湧きようがないだけだ。


 食事に慣れた、と言えば強がりになるだろう。

 秋の北海を行く、バルチック艦隊の食事に。

 急ぎの航海は、随所にひずみを生む。

 そして航海にひずみを生んでいるのは、ロシアの政情もだ。

 世界屈指を謳われる艦隊の、これが内実だった。


 生鮮野菜に乏しい、と言うだけではない。

 戦艦ポチョムキンの一件――腐敗肉に端を発する反乱――まで、あと八ヶ月しかない。

 こう言えば、その一端は伝わるだろうか。

 当艦隊内では早くも、軽い病人が出始めている。

 大航海時代からの船乗りの宿痾――壊血病の患者が。


 無論、僕には原因が分かっている。

 生鮮野菜・果物の欠如による、ビタミンCの不足。

 原因が分かっているのと、それに対処するのとは別だ。

 はっきり言えば、いま僕も壊血病にかかっている。

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