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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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ふた皿目・7

「何か、と言われてもな……」


 困惑したように、ノビコフ。


「そいつは、フリットの残骸、としか言いようがないな」


「うん?」


「先程、じゃがいもを水に晒しただろう。あの水の、捨て忘れだ」


 言ってボウルに手を伸ばし、流しに捨てようとする。

 ここでヒントを失う訳にはいかない。

 少しだけ慌てて、僕はそれを制する。


「いや、待ってくれ、今何か思い出しかけたんだ」


「それはいいが、時間がないぞ」


「うん、分かってはいるよ」


 じゃがいも。アク抜き。

 目の前の、水に沈んだ白。


「――あ、そうか」


 不意に、その正体が分かる。

 となると、だ。

 僕はさらに、考えを巡らせる。

 じゃがいもなら、十分にある。

 他には?


「――はちみつか砂糖はあるかな」


「両方あるな。何かひらめいたのか?」


「うん。今からもう少し、手伝ってもらえるかな」


「できる範囲なら」


「じゃあひとまず、じゃがいもをすり下ろしてもらえるかな? 僕の左腕じゃ、ちょっとむずかしくてね」


 すりがねを固定するには、力とコツがいる。

 ここは任せたほうがいいだろう。


「了解」


「それと、ガーゼはあるかな。無いならタオルでも」


「ガーゼなら濾す奴が」


「ああなるほど、無い方が不思議だったね」


 香草の束(ブーケガルニ)を使うにしろ果物をゼリー(ジュレ)へ仕立てるにしろ、フランス料理にガーゼは必要だ。考えてみれば、ある方が当たり前の話と言える。


「じゃあひとまず、じゃがいもをよろしく。時間もないし、僕はソースを作るよ」


「ああ。――こちらからひとつ、聞いていいか?」


「答えられる範囲なら」


 若干の余裕が出たせいだろうか。

 僕の方から、軽口も出る。


「このボウルだが、さらした水はどうする?」


「あ、そうだったね」 


 少しだけ笑みを浮かべ、僕は言う。


「それはもういいよ。若干、名残惜しくはあるけどね」

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