ふた皿目・7
「何か、と言われてもな……」
困惑したように、ノビコフ。
「そいつは、フリットの残骸、としか言いようがないな」
「うん?」
「先程、じゃがいもを水に晒しただろう。あの水の、捨て忘れだ」
言ってボウルに手を伸ばし、流しに捨てようとする。
ここでヒントを失う訳にはいかない。
少しだけ慌てて、僕はそれを制する。
「いや、待ってくれ、今何か思い出しかけたんだ」
「それはいいが、時間がないぞ」
「うん、分かってはいるよ」
じゃがいも。アク抜き。
目の前の、水に沈んだ白。
「――あ、そうか」
不意に、その正体が分かる。
となると、だ。
僕はさらに、考えを巡らせる。
じゃがいもなら、十分にある。
他には?
「――はちみつか砂糖はあるかな」
「両方あるな。何かひらめいたのか?」
「うん。今からもう少し、手伝ってもらえるかな」
「できる範囲なら」
「じゃあひとまず、じゃがいもをすり下ろしてもらえるかな? 僕の左腕じゃ、ちょっとむずかしくてね」
すりがねを固定するには、力とコツがいる。
ここは任せたほうがいいだろう。
「了解」
「それと、ガーゼはあるかな。無いならタオルでも」
「ガーゼなら濾す奴が」
「ああなるほど、無い方が不思議だったね」
香草の束を使うにしろ果物をゼリーへ仕立てるにしろ、フランス料理にガーゼは必要だ。考えてみれば、ある方が当たり前の話と言える。
「じゃあひとまず、じゃがいもをよろしく。時間もないし、僕はソースを作るよ」
「ああ。――こちらからひとつ、聞いていいか?」
「答えられる範囲なら」
若干の余裕が出たせいだろうか。
僕の方から、軽口も出る。
「このボウルだが、さらした水はどうする?」
「あ、そうだったね」
少しだけ笑みを浮かべ、僕は言う。
「それはもういいよ。若干、名残惜しくはあるけどね」




