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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
236/350

ふた皿目・3

 悩ましい。

 この悩ましさが、率直に言って楽しい。

 けれども、その悩ましさ楽しさは果たして、(ゆえ)あるものなのかどうか。

 無意味な感慨なのではとの疑念は、少しだけ怖い。


 楽しめるのも才能の内とは言うけれど、それは必ずしも正しくない。

 楽しさにも、いろいろ種類があるのだから。

 初心の何もかもの新鮮さと、一通り踏まえてからの厄介さ。

 ふたつを、同じ楽しさに入れるのは無理な話。

 そしてそのいずれもが、才と因果関係にあるとは限らない。

 それはそうだろう、見知らぬ観光地が面白いのはほとんど当たり前だ。

 観光と日常とでは、面白さとなるものがまるで違うのだから。


 楽しめる程に才溢れる者が、何事かを成すのか。

 はたまた、楽しめるからこそ長く続き、結果として積み重ねることができるのか。

 そのどちらなのか、僕にはよく分からない。

 分からないという程度には、才に恵まれたと思っている。


 平凡ではない、けれど明確な非凡でもない。

 では非凡とは何か。誰のことか。

 僕にとってそれは、彼女(・・)のことだ。

 彼女でしかありえない。

 ジョゼファ・スターリナ。

 まぎれもない、天賦の資質者(カリスマ)


 そうだ、と僕は思う。

 ふたたび寵児に寄り添いたいなら、手が触れる程度には登らないといけない。

 少なくとも、太陽に灼かれるかを心配できる程度には。


「――ひとまず、火傷しない程度には頑張らないとね」


 とは言え、高すぎるハードルな気がしなくもない。

 そうつぶやいた僕に、ほとんど予想外の解は来た。


「なるほど、焼き菓子か」


「うん?」


「悪くはないが、今からでは準備が厳しいな」


 時計を見る。

 残りは30分足らずと言ったところだ。

 ホールケーキやパウンドケーキは無理。

 シフォンケーキも焼き上げるのは不可能。

 クッキーでもたぶんギリギリだ。


「――うん、そうしよう」


「焼き菓子なら時間が――」


「いや、そうじゃないよ」


 その先を制し、僕は言う。


「ふた皿目は、お菓子(デザート)にするってこと」

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