ふた皿目・3
悩ましい。
この悩ましさが、率直に言って楽しい。
けれども、その悩ましさ楽しさは果たして、故あるものなのかどうか。
無意味な感慨なのではとの疑念は、少しだけ怖い。
楽しめるのも才能の内とは言うけれど、それは必ずしも正しくない。
楽しさにも、いろいろ種類があるのだから。
初心の何もかもの新鮮さと、一通り踏まえてからの厄介さ。
ふたつを、同じ楽しさに入れるのは無理な話。
そしてそのいずれもが、才と因果関係にあるとは限らない。
それはそうだろう、見知らぬ観光地が面白いのはほとんど当たり前だ。
観光と日常とでは、面白さとなるものがまるで違うのだから。
楽しめる程に才溢れる者が、何事かを成すのか。
はたまた、楽しめるからこそ長く続き、結果として積み重ねることができるのか。
そのどちらなのか、僕にはよく分からない。
分からないという程度には、才に恵まれたと思っている。
平凡ではない、けれど明確な非凡でもない。
では非凡とは何か。誰のことか。
僕にとってそれは、彼女のことだ。
彼女でしかありえない。
ジョゼファ・スターリナ。
まぎれもない、天賦の資質者。
そうだ、と僕は思う。
ふたたび寵児に寄り添いたいなら、手が触れる程度には登らないといけない。
少なくとも、太陽に灼かれるかを心配できる程度には。
「――ひとまず、火傷しない程度には頑張らないとね」
とは言え、高すぎるハードルな気がしなくもない。
そうつぶやいた僕に、ほとんど予想外の解は来た。
「なるほど、焼き菓子か」
「うん?」
「悪くはないが、今からでは準備が厳しいな」
時計を見る。
残りは30分足らずと言ったところだ。
ホールケーキやパウンドケーキは無理。
シフォンケーキも焼き上げるのは不可能。
クッキーでもたぶんギリギリだ。
「――うん、そうしよう」
「焼き菓子なら時間が――」
「いや、そうじゃないよ」
その先を制し、僕は言う。
「ふた皿目は、お菓子にするってこと」




