ひと皿目・2
アスパラガスはあくまで添え野菜、大量に仕込むわけじゃない。
湯を湧かした後は、すぐ茹で終わるだろう。
それならば、だ。並行すべき作業は何か。
「僕は肉を焼くよ。そっちは、茹で終わったら揚げ油を熱しておいてくれるかな」
「温度は?」
「170度――ひとまず、ステックフリットにしようと思ってるけど」
「ステーキとフライドポテトか。なら、こちらでジャガイモは切っておく」
「ありがと、助かる」
手先の器用さを要求されることは、今はそう得意ではない。
以前ならまだしも、僕の左腕は万全とは言いがたいのだから。
下ごしらえの申し出はだから、かなりありがたい。
「厚さはどうする?」
少しだけ考え、結論を下す。
「――小指より少し厚いくらいで」
「フリットにしちゃ分厚くないか?」
「うん。油の具合がよく分からないからね」
道具の手入れから察するに、油の質は心配していない。
フライにしてみても、胃がもたれることはないだろう。
問題は、僕が揚げ物に不慣れということだ。
油の性質がよく分からず、油用の温度計ももちろんない。
こうなると揚げ物は、僕にとって不確定要素の塊ということになる。
なのに作ると決めたのは、このメニューに不可欠だからだ。
牛丼に味噌汁、ハンバーガーにフライドポテト。
それら同様、ステーキとフライドポテトは定番中の定番なのだから。
慣れ親しんだ味は、ときに技術の不備を補い得る。
それに、分からないなりにも対処しようはある。
低温度から長時間、じっくり油で揚げること。
これならば、どんな腕であっても間違いが少ない。
ジャガイモの表面はサクサク、中はホクホクに仕上がるはずだ。
「好みはあるけど、太めに切ってもらおうと思う」
「なら、鍋ももうひとつだな」
「うん? ええっと――」
さも当然の表情に、僕は素直に訊ねることにする。
この手の違和感は、できるだけ看過しない方がいい。




