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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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空腹技法

「話を聞こう」


 僕はそう繰り返し、先方の応答を待つ。

 わずかな、数瞬の沈黙。


「――いいだろう、まずは」


「まずは?」


「ランチを作ってくれ」


「……はっ?」


 確かに、調理場は食事を作るところではある。

 この場には食材も器具も揃っている。

 外形的に何ら問題はない。


「済まないけど、もう一度いいかな」


「聞こえなかったか。余はランチをご所望だ」


 最後の方は冗談と分かる。

 けれども、前半はどうだろう。

 腹が減っている、と言うことなのか。


「――パンならそこに」


 片隅、バスケットに置かれた数本のパンを指す。

 小ぶりのフランスパン、いわゆるバゲットだ。

 先付け(アミューズ)にするも前菜(オードブル)に使うも良し。

 無論、この場でちぎって食べても不足はない。

 だが男、ノビコフは首を振る。


 ……近くにパン屋はあっただろうか。

 バゲットだけで味気ないと言うなら、サンドイッチくらいで足りるだろう。

 ――いや、この辺りは飲食店が建ち並んでいる。

 休業中、貸し切りのこの店が例外なだけだ。

 昼下がりとは言え、一切が空いてないはずもない。


「お望みの食事なら、通りに山ほど」


 扉の方を指さしてみるも、返ってきたのは再びの首振り。

 ……考えていることが、今ひとつ見えてこない。


「遠慮せず、食べに行けばいいだろう」


 僕のような素人でない、プロの作った食事を。


「無銭飲食でも、か?」


「冗談、だよね?」


「半分は」


 この男にも、洒落っ気程度はあるらしかった。

 もっとも、ずいぶん分かりにくい、ひねくれた代物ではあるけれど。


 ――いや本当のところ、僕に作らせる方便なのは分かっている。

 分かっているけれど、その言い回しには少し、好感を抱いた。

 予備会場への移動に、試験そのものの軽い準備。

 僕ら以外の試験組は、とうに終わっていて不思議はない。

 あるいは仲間同士、昼から一杯繰り出していても。


 空腹。時間的にも、決して嘘ではなさそうだ。

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