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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
222/350

妥協提案

「別室」


 またしても、男は言う。


「何かあったときの為にも、別の会場、おさえてるだろ。俺たち(・・・)はそこでいい。これなら、揉めずに面倒がなくていい。試験も無事に(・・・)続けられる。そうだろ?」


 ――詭弁だ、そう僕は思う。

 揉め事は既に起こってしまっている。

 これはだから、純粋な要求に過ぎない。

 僕たち二人に、特別な待遇を求める旨の。

 まったくもって、公平どころじゃない話だ。


 ただし、だ。

 審査員は果たして、このすり替えに気付くだろうか。

 おそらくは、仕事を無難にこなそうと考えるであろう審査員が。


「そちらとしても、時間が惜しいだろ。全くもって公平な(・・・)取り引き、こいつは別に、迷うところじゃない」


『ですが……』


「こいつらも、どこで口外する訳じゃない、だろ?」


 男はゆるり、会場を見渡す。

 調理中である、参加者の方を。

 視線が合わさるたび、他の参加者たちは視線を逸らす。


 ――なるほど、と僕は思う。

 料理人は口が堅くなければ話にならない。

 たとえば、いつ誰が来るか。

 あるいは、ふらりと誰かが来るたびに。

 その一々を言いふらすようでは、まったく雇えたものではない。


 つまるところ、男は念を押しているのだ。


 ――お前たちは、この場のことをしゃべらないよな?


 これはほとんど、無言の圧力に等しい。


 無論、ここで落選した調理師たちは、酒の肴にでも話すのかも知れない。

 おかしな参加者もいた、とでも。

 けれども、恐らくはその程度。

 噂話はせいぜい、海軍調理師隊の目の届かない範囲に留まるはずだ。

 目の前の審査員は(・・・・・・・・)、何を問われるでもない。


『……分かりました』


 ため息混じりに、審査員。


 妥協かはたまた投了か。

 ともあれ、この場で男は勝ち得た訳だ。

 試験に関しての、特別な待遇を。

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