審査員団
「――なるほどな」
頷き、彼は答える。
「俺たちのところは、そう狭量じゃないハズだけどな……審判! いや、審査員!」
『何ですか、13番?』
審判は、いや審査員は答える。
中肉中背、壮年の男。水に触れがちなせいか、手にはあかぎれがある。
指先の数カ所には、他の刃物のそれとはっきり違う、古い包丁傷の跡。
間違いなく、艦隊調理師の一員。
長でこそないが、と言って下っ端でもない。
審査員を任される程度には信頼された中間管理職。
ひとまず、そんなところだろうか。
……ここまで見て取り、僕は合点する。
目の前の姿がよく分からないほど、僕は落ち着きを失っていたのだと。
そう、最初からだ。
あらかじめ失っている者は、失っていることそれ自体に気づけない。
けれども何かきっかけさえあれば、それに気付くこともある。
きっかけとは、まぎれもなく一人。
僕の目の前にいる、海軍の男だ。
「棄権だ、棄権する」
『……この場で、ですか?』
「ああ」
『あなたは課題を提出していません。それでも、ですか?』
「無論」
予想外の展開ではるものの、内心、僕はほっとする。
これでようやく、目の前のことに集中できるのだから。
「棄権して、こいつを補助する」
「えっ?」
『それは……』
意味が分からない。
それはほとんど、この場全員の総意に違いなかった。
残りの参加者も、もちろん手を動かしながらではあるけど、ことの成り行きを見守っている。
「こいつは手傷を負ってる、そうだろう?」
「あ、う、うん……」
『――事前審査の段階で伺っています。あなたが心配することではありません』
「いや、それじゃ不十分だ」
何を言い出すのか、僕には分からない。
この場の誰も、いや、目の前の男を除いては。
 




