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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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よそびと

 このとき、ようやく僕は、忘れていたことを思い出す。


「――僕はユーリ、です。ユーリ・アリルーエフ」


 ――よろしく。

 そう言いかけて、ロシア語に存在しない言い回しだったと気付く。

 よそ(びと)でしかない己を、否応なく味わった気分。

 仕方なしに、僕は言葉を代用する。


「……初めまして(オーチン・プリヤトナ)


こちらこそ(オーチン・プリヤトナ)、ユーリさん」


 人懐こい笑顔が覗ける。

 おそらくは、悪い人間ではないのだろう。

 ただ少しばかり、相手の事情に無頓着なだけで。

 もしかしたら、何かのときには長所になるのかも知れないけど。


「アレクセイ。アレクセイ・ノヴィコフ」


 手を差し出しながらの、その名前。

 かすかに、記憶が引っかかる気がした。

 確かに覚えがある、なのに思い出せない。

 胸に困惑をしまいながら、僕は応える。


「先程は助かりました。助けついでに、僕を目の前の試験に集中させてはくれませんか?」


「ふむ」


 手を下あごに当てての思案顔。

 ――せいぜい数秒の仕草、気に障るほどのことじゃない。

 そう僕は自分に言い聞かせる。


「そうだね、お望み通りそうしたいのは山々だけど、でも僕は手持ち無沙汰だ。うん、君の提出メニューを教えてくれたら、てのはどうだ?」


「む……」


 今度は、僕が思案する番だった。


 提出するつもりの二皿。

 試験を戦場とするなら、レシピは弾薬だ。

 兵士の持ち物にして、武器の裏付けとなる物。


「――いや、いくら何でも、暇つぶしにそこまではつき合えませんんね」


 戦場で()に、手の内を申告する正直者などいない。

 いるとしたら愚者か間者か、あるいはその両方かでしかない。

 不自由な方の左腕を差し出し、後を続ける。


「この通り、僕にはハンディがありましてね。普通の人(・・・・)に真似されちゃ、どうにもならない」


 ノヴィコフと名乗るこの男が、普通に場数をこなした調理人(コック)ならば。

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