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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
【第二部】 1904年、フィンランド湾、クロンシュタット
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落ち着き

 冒険(リスク)見返り(リターン)

 こちらの意図を伝えつつ、二皿に収まるようメニューを絞ること。

 そのバランスの見極めが、今はひどくむずかしい。


 それはそうだろう。

 ――ユーリ君なら簡単だよ。

 少し前、かけられた言葉を思い出す。

 実際の難易度は問題ではない、でもどう考えていたかは重要だ。

 簡単。その試問に落第すれば、果たしてどうなるか。


 もちろん、僕が入ったのはまだ(・・)ささやかな組織だ。

 唐突に消されるようなこともなければ、理不尽に延々と追っ手が来ることもない。

 そんなことはせいぜいドストエフスキーの話、『悪霊』の中だけだ。

 人手の潤沢でない組織の追求など、たかが知れたものだ。

 たとえ失敗しても、この身があやうくなることはない。


 けれど間違っても、加点がつくようなこともあり得まい。

 見込まれてはいるけど、まだまだ下っ端の類。

 冷静に見て、それが僕の、今の身分だ。

 指導者どころか、幹部にもまだほど遠い身。

 そんな身で、むざむざ失敗する訳にはいかない。


 知らず知らずの内に、僕は追い込まれていた。

 無意識の激情(ティルト)ほどタチの悪いものはない。

 救いの手はだから、正直なところ意外なものだった。


「――おいおい、大丈夫か?」


 こちらをのぞき込む顔を見て、僕は少しだけ穏やかになる。

 表情からは純粋な心配が伺えたからだ。

 彼に覚えた腹立たしさも、徐々に収まっていく。


 同時に、僕は学んだ。

 誰かの落ち着きは、別の誰かを落ち着かせることもあるのだと。


「あまり大丈夫じゃないね」


 ひとまず、僕は返す。


「――と、こう言えるくらいには大丈夫かな」


 この冗談は、まずまずお気に召したようだった。

 張りつめた空気がゆるんでいく。


「はは、取り越し苦労か。済まないな」


「いや、そうでもなかったよ。こうして声をかけてくれて、正直なところ助かった」


 その点に関しては、素直に認めなければならない。

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