消化試合
「連れないねえ、こんな試験に全身全霊か?」
いかにも、目の前の試験などどうでもいいとの態度。
記念受験、と言う奴だろうか。
あらかじめ進路が決まった状態での消化試合。
あるいは冗談半分で志願して、足きりが実施されなかった。
いつの世でも、そう言う輩の態度は変わらない。
――もちろん、腹立たしいことに変わりはない。
ただし、だ。
今はひとまず、律儀に感情を揺らしても仕方ない。
十数年前、前期を終えたときの状況を思い出す。
あのときの失敗。二度としないと誓った失敗。
同じ道を歩むのは、もうご免だ。
コンマ数秒単位、急速に僕は落ち着きを取り戻していく。
軽く、審査員の方を見る。
こちらを見てはいるが、止めに入る気配はない。
――なるほど、とまたしても思う。
過程はほとんど関係なく、提出課題そのもので見るのだろう。
あるいは、もう一つの可能性もある。
つまり、軽い揉め事を適当にあしらうのも、試験の一貫だという可能性だ。
向こうの――審査員と目の前の男の――手の内が分からない以上、慎重を期すに越したことはない。
「後にしてくれないか」
もう一度、僕は繰り返す。
「少なくとも僕に、失敗する気はない」
追い払えれば御の字。
もし無理であっても、反応は引き出せる。
「そう言うなよ。向こうの連中には断られた後でね」
親指で指した先を、僕は見る。
審査員を除いた残り3人。
調理場、主に響くのは包丁の音だ。
黙々と腕をふるう男たち。
「あんただけだよ、二言以上を返してくれたのは」
始まって短い時間、どうして僕のところにやって来たのか。
謎は簡単に解けた。
つまり、律儀に相手にしたのは僕ひとりな訳だ。
――よう、どうだ?
――……。
およそこんな風だったのだろう。
最初から無視を決め込めば、それで済んだこと。
「……そりゃ、どうも」
若干の後悔を、僕は振り払う。
これが採点なら、取り返しがつかないことだろうか。
そうではない。
いや、そうでないと考えるほか、この場ではしょうがない。




