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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
213/350

“肩書き”

「それなら電話、こちらで切っておくわ。そちらこそ、他に何か言うことないの?」


 正直に言えば、話したいことは有り余るほどある。

 ロシアの今に、これからの事。僕らの関係。

 けれどもそれは、後々(・・)じっくり話せばいいことだ。

 根拠のないそんな確信を、このとき僕は抱いていた。


「無い、かな」


 だから、僕は言葉を口にする。

 最小限、彼女には伝わるように。


「少なくとも今は、ね」


「――ねえ、ユーリ」


「何?」


今は(・・)これで最後にするけど――本当に、転職(・・)する気なの」


「うん」


 自分でも驚くほど、迷いのない答え。

 あるいは気付かない内に、吹っ切れでもしたのだろうか。

 あえて混ぜ返す風に、僕は言う。


「流刑された身じゃ正規ルートの出世はむずかしいだろうとか、復帰しても君の邪魔になるかもとか……他にも、言い訳ならいろいろあるけど」


「ならそれ以上は不要よ。説得の余地は無し、ね」


 溜息混じりに、彼女。


「革命家の誕生、て訳ね」


「自称でよければ、今日からそうなのかな」


 20世紀初頭、皇帝の治める地・ロシア。

 わざわざ正直に、私は反政府分子です、と名乗って回る者はいない。

 僕にしても、そこまでシベリアが好きな訳じゃない。

 凍土氷原(ツンドラ)で木を数える趣味は、僕にはない。


「――まあ、何か資格があるでもないけどね」


 それに、と僕は思う。

 成功した革命家は、もはや革命家ではない。

 恐怖分子(テロリスト)民衆の敵(パブリック・エネミー)

 あるいは、さらに成功したならば。


「気が向いたら」


 一拍だけ置き、僕は言う。


「その内、政治家(・・・)にでもなるよ」


 電話から切れる音はしなかった。

 伝わるのは静けさだけ。

 ただ自分の吐息のみが響く、誰のものでもない音。



   (第一部完、第二部へ続く)

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