交錯
「結構長くなったかな――電話、そろそろ切るよ。あと何か、聞いておきたいこと、あるかな?」
ひょっとしたら、これが最後かも知れない。
そんな状況でのこの台詞、いかにも無粋な話だ。
けれども、僕はほとんど確信してもいた。
僕らの行く道は、これからまた、幾度となる交錯するだろうと。
政府と反政府。宮廷と組織。
僕らが互いに階段を登り行くならば、必然、そうならざるを得ない。
「特に無いわ。それで何とかやって行くでしょ。これからの連絡は?」
「一応、定期的に手紙を出す気ではいるよ。その都度の投函場所は、詮索しないでくれると助かるね」
「分かった。もう切っていいわよ」
「――ごめん、実は切り方、よく分からないんだ」
ようやく、僕は白状する。
格好がつかないことこの上ない。
「これ、この持ってる受話器を置けばいいのかな?」
小型機械からの固定電話への機種変。
タッチパネルがあるでも、一台で何役を兼ねるでもない。
固定電話はただひたすら、無骨で即物的な機械だった。
変化としては、正直かなり刺激的だ。
そして当分、刺激に慣れることはないだろう。
この電話という代物は、全くもって安くはないのだ。
無線通信のドーバー海峡横断から、まだ4年と少し。
大西洋を横断してからは、まだ2年と経ってはいない。
ラジオ放送に至っては、あと3年がかかるはずだった。
あまりにもゆっくりな、当世の通信事情。
けれど、これはもちろん、僕の感覚がおかしいだけだ。
時代時代に革新があり、そのたびに感覚の刷新がある。
電話も無線も、今の最新鋭なのだ。
と言って個人の連絡も軍の伝達も、依然として旧来の陸路、つまり郵便物ではあるのだけれど。




