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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
210/350

放蕩

「――なら、こう言うのはどうかな?」


「続けて」


「まず大勢から血をとる所で、何らかの噂は避けられない。ましてやその血を他人にだなんて、ほとんど中世まがいのこと。それならもっとマシで、それより納得し易い看板にすればいい」


 少なくとも、黒魔術よりはましな噂を。


「たとえば、あまりお上品でない会合とかね。まだまともだし、分からなくもない。――ああ、そうだ。ひとつ言っておかないといけないな」


「何?」


「血は、できるだけ清らかな(・・・・)人間からとって欲しい」


 赤い液体は、人に必要な臓器(・・)であると同時、微生物の巣窟でもある。

 梅毒にしろB・C型肝炎にしろ、血液感染する病気を数えればきりがない。

 もし(・・)皇太子が長生きするのなら、それらに悩まされない方がいい。


 後世では肝炎ワクチンひとつで予防が、と言ってみてもしょうがないことだ。

 ウィルスを見分けられる電子顕微鏡の発明は、今から30年ほど後の話。

 運用のための潤沢かつ安定した電力網もまた、まだこれからの事。


 今はまだ、血液感染の予防は夢物語でしかない。

 けれども感染症を恐れ輸血を行わないのは、明確に優先順位が違う。

 継続的感染による症状が現れる年齢まで、そのまま生き延びるとは限らないのだから。

 食当たりを気にして飢え死にするようなものだ。

 けれども、ある程度の予算をとれるのなら、予防もまた選択肢に入り得る。


「清らかな血、ね。それはお(まじな)い? それとも根拠のあること?」


「噂話にも、本当のことがあるってこと。アレクセイ君の病気、防げるものなら防ぐにこした事はないからね」


 その名を口にして、僕は気付く。

 彼女とほぼ同時に。


「――アレクセイ、て名前なのね?」


 少なくとも、僕のいた時代ではそうだった。

 若くして亡くなる悲劇の皇太子。

 その名の方を否定する意味は、ひとまず無い。


「うん、そうだね」


「名前、候補として伝えておくわ。私の方は――せいぜい、放蕩(ラスプータ)を尽くしておきましょう」

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