対戦相手
「その辺はこれ位にしておきましょ。――ところで、子供のこと、覚えてる?」
「もちろん」
「ならそろそろ、病気だったときの対策を教えて。方法によっては根回しもあるし」
「――血、だね」
意識的に彼女の話し方を真似、僕は説明する。
最初に単語を提示し、惹き付けるやり方。
「血の問題は、血で解決するしかない」
「抗争の話?」
「いや、ひどく生物学的な話だよ」
血で血を洗う抗争では、おそらくは勝てないだろう。
僕が言うのはだから、医学上でのお話でしかない。
「つまり、これから生まれる皇太子はおそらく、血を固める成分を作ることが出来ない」
遺伝子も血漿成分も、この世界ではまだ発見されていない。
となると僕には、このくらいの言い回ししか出来ない。
「足りない成分を足す。他人の血を、定期的に皇太子へ入れる」
「――まるで中世ね」
「見かけはね。でも、そのままやると致命的になる可能性が高い。血にも合う型と合わない型があるからね。その辺だけは、おつきのエフゲニー医師に話してある。適宜聞いてみて」
血液型もウィルスも、概念が広まるのはまだこれから。
一からの説明よりは、断然この方が早いはずだ。
「つまり、血を供給してくれる人たちを集めるってこと?」
「うん」
「むずかしいわね」
「と言うと?」
「考えてみて頂戴。傾きかけた王朝が、人を集めて生き血を採る……怪しいなんてもんじゃないでしょ」
「――あ」
正直なところ、そこまで考えが及んでいなかった。
端から見ればそれは、何かしら儀式のそれに近いだろう。
たとえば、傾いた王朝を復活でもさせようとする類の。
客観的に見た印象は、「おしまいも近い」以外あり得ないはずだ。
内容の方は、当たらずとも遠からずではあるのだけど。
「少なくとも、そのまま行うのは無理ね。枝葉はともかく、木の幹に傷がつき過ぎる」
ロマノフ王朝と言う、枯れかけた樹木。
この期に及んでの傷が、果たしてどう作用するか。
不確か過ぎる試行は、避けるに越したことはない。




