安堵
「公的な方? それとも私的な方?」
よくよく、彼女は冷静だった。
一瞬でも錯覚した僕とは、かなりの違いだ。
「――公的な方だね。私的な方は……もし、君が望むなら」
もっとも、前者で離れるとなると、後者をともにするのはむずかしい。
大っぴらに連絡を取り合うのは、今よりもっと、制限されることだろう。
「ユーリの方は?」
「たぶん、君と同じ考えだと思う」
「少なくとも、その部分の意見は合ったみたいね」
互いのかすかな笑いが、目の前の受話器を通して伝わる。
そして――短い嘆息。
どんなときでも、ついぞ聞いたことのなかったはずの息。
「勧誘、受けたんでしょ。一目置かれるのは不思議じゃない。でも、あぶない道、と言って聞く風じゃないものね。もしかしたら、私よりあなたの方が知っているはずだし」
僕としても、特に否定はしない。
ほとんどその通りのことだからだ。
「……僕の方は、あくまで知識としての話だけどね。まあ、そう大した規模の組織じゃないよ。今のところは、だけど」
知らない、そう言い切るのは違う。
けれども、知り尽くしているともまた言いがたい。
非合法組織の実態なんて、元・不真面目学生の身には余ることだ。
それでも。
「たぶん、怖いのだと思う」
「何が?」
一瞬だけ置いて、僕は答える。
「君の力が」
力。
知恵とも知慮とも、ましてや知識とも異なるもの。
才、人柄、あるいは神的資質。
それをどう表するべきなのか、僕は今なお迷っている。
「――何て言えばいいのかな、このままじゃいろいろ、ダメな気がするんだ」
気のせいにこしたことはない。
それでも、このときの僕は距離を置きたかった。
「わがままなのは分かってる。どんな形になるかは分からない。けれども、力を身につけて来るよ」
つかの間の沈黙。
「どんな形になるかは分からないけどね。僕が確かめることが出来たそのとき、また会いたい。いや、また会おう」




