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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
206/350

次点

「それは……」


 僕は言葉を濁す。濁さざるを得ない。

 膨れあがる犠牲者と、戦費に足るだけの見返り。

 元手が返って来るかというと、どうにも厳しい。

 ――こう考える僅かな間だけで、彼女は察したことだろう。


「……いやそもそも、勝つ気なの?」


 あくまで、僕のいた世界では、だ。

 ロシアは日本海で敗れ、以後、崩壊の一途をたどった。

 その道行き、崩壊までの猶予は、もう十数年しかない。


 今のままではたぶん、開戦を阻止することは適わない。

 宮廷での彼女はまだ新参者であり、シベリアで刑期明けを待つ僕はただの流刑囚でしかない。――ならば、考えを変えることはあり得る。


 厭戦と敗戦。

 賠償金こそ避けられたものの、領土割譲と重い戦費負担。

 皇帝の威信低下と、そして。

 戦争自体はおそらく防げない。

 けれども次点の可能性を考えるならば、なるほど、理解できなくもない。


「このままなら、その第零次(・・・)は負けるのね」


 ようやく僕は、少し話し過ぎたことに気付く。

 ――いや、違う。

 それにしては彼女が、どうにも平静過ぎる。


「どうしてそう思うのかな? いや、僕の方の発言は置いておいて、だけど」


「同盟」


 そう短く、彼女は答える。


「去年の1月、日本(ヤポーニヤ)と英国が同盟を結んだでしょ。もちろん、ロシアに大した意味はない。少なくとも今はそう思われてる。皇帝にしても、同盟より英国との親戚関係が優先するとでも考えてる。――そうとでも考えないと、説明がつかない」


 古い考えだった。

 ひどく常識的で、どうしようもなく甘い見通し。


 日清戦争後の三国干渉と、相次ぐ大国の清への侵略。

 そんななかでのロシアの進出は、日本と、もちろん英国ともぶつかる。

 ぶつからざるを得ない。

 その機微を上手く察することができない。

 それが今の、ロシア中枢なのか。


「もし、日本と海戦をするなら、当然海を通るでしょ。日本までほぼ地球を半周。その間に一切、英国の妨害がないとは考えにくい。あの同盟はだから、こちらにとって最悪に近い――もし日本とぶつかるなら、だけど」


 完璧な推測。

 もし僕が試験官なら、素晴らしいとしか評価のつけようがない。

 感嘆を胸にしまい、僕は答える。


素晴らしい(ザミチャーチェリヌィ)

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