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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
204/350

信頼

 ――どう思う?


 その言葉に思わず、僕は怯む。

 怯まざるを得ない。


 相手の意志を、こちらが半ば左右する感触。

 あるいはこれが、支配(・・)の味なのだろうか。

 ひんやりとした、サワークリーム(スメタナ)にも似た。


 今までほとんど見せたことのない、彼女の迷い。

 たぶんそれは、もっともな話でしかない。

 想像することがむずかしい、何千万人の行く末だけではなく。

 目に見える範囲、ほとんどすべての人の将来を、迂闊に左右することは出来ない。


 ――どう思う?


 その一言はつまり、そう言うこと。

 独り、彼女だけが迷うことではないはずだ。


 それでも、と僕は思う。

 わがままにも、こうも。

 決して迷わないで欲しかったと。

 常に毅然としていて欲しかったと。

 ジョゼファだけは、特別でいて欲しかった。


 おそらくは僕にだけ見せた迷い。

 あるいはこれを、信頼と言ってもいいのだろうか。

 そうとも言えるのかも知れない。

 ただそれだけなら、ひどくうれしいことだ。

 ――こんな局面でさえなければ。


 右手の受話器を握り直し、僕は言葉を探る。


「……むずかしいね」


 はれ物にでも触るように、おそるおそる、ゆっくりと。


「僕が知っていることと言ったら、僕のいたところでの歴史だけだ。それも過去の代物。直接いた訳でも、心底知り尽くしているでもない。そんな知識ひとつでどうこうしようなんて、そこまで自惚れてはいないつもりだけど」


「――予断を与えるかも知れないから、明言はできない、てこと?」


「うん、そうとって貰っても構わない」


 何気ないはずの言葉選びが、今はひどくむずかしい。


()の判断力を、今はなるべく減じたくないんだ。なにしろ、いろいろと賭かってるからね」


 これから起こるであろう諸々を、今はしまい込んでおきたかった。

 恐怖でもでもない、何か大きなものと対峙している感覚。


「……責任重大ね」


「そうだね。もし、失敗したなら――あまり愉快なことにはならないかな。いや、このままなら、と言うべきかな。そのときは――」


「何が始まるの?」


 手短に、僕は答える。


「第零次世界大戦」

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