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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
203/350

あるいは

 生と死とがいずれ訪れること。

 そのことだけは、どんな生者にとっても平等だ。

 たとえそれが、“形がどうであれ”との注釈が必要であっても。


――生まれる場所も時代も自由にならないなら、最期くらいは自分で決める。


 僕は不意に、そんな台詞を思い出していた。

 もちろん、知り合いの言葉じゃない。

 子供の頃に物語で読み、こちらが一方的に覚えているだけだ。


 ベイリュール。

 確か、そんな名前だったはずだ。

 師と弟弟子と袂を分かち、ほどなく道を違えた男。

 自らの結末を悟り、自らを裁いた男。


 あの名は果たして、本当の名だったのかどうか。

 その本が書かれる(・・・・・・・・)のは、今から90年近く後のこと。

 僕が確認する手段は、実質ほとんど失われているに等しい。

 けれどもそう名乗っていた盗賊の存在は、もはや本を読み返せない今となっても忘れがたい。

 いや、忘れることができないでいる。


 ――あるいは、と僕は思う。

 僕たちもまた、袂を分かつことがあるのだろうか。

 ほんの少しの行き違いから違う道を歩んだ、兄弟子と弟弟子のように。


「で、何か策は考えついてる? つまり、今のロシアの改革についてを、だけど」


 ひとときの感傷を振り払い、僕は言う。


 僕ら二人が袂を分かつこと。

 あるいは将来、そうなるのかも知れない。

 けれども、それは今のことではない。

 それだけでもう、十分過ぎるはずだ。


「このままなら、十数年で滅びることになるからね」


 予想でも予言でもない。

 純粋に、僕の居た世界での事実に過ぎない。


「――それもいいのかも知れない」


 その返事はやや、予想の外だった。


「ええっと……もう少し、詳しく聞かせてくれるかな」


「このままなら、静かに終わっていくと思う。もし長持ちさせるなら、少なからず木の手入れ(・・・)が必要でしょ。でも木のどこかを切れば、それは倒れる危険も出るってこと」


 わずかな逡巡。無理もないことだ。

 大勢の人命を左右することが、そう滅多にあることは思えない。


「立ち枯れと倒木。どちらの最後がいいのか、私には分からない――ユーリは、どう思う?」

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