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魔王少女スターリナ  作者: 祭谷一斗
1903年、シベリア、イルクーツク 12月
202/350

平時

「上手く行っている、ね――そうだと良いんだけど」


 珍しく、彼女は言葉を濁す。

 これはつまり、聞かれたら答えると言うことだ。


「何が上手く行ってないのかな?」


 名付け親の話から、皇帝一家との関係は良好と分かる。

 ならば問題は、その他の部分ということになる。


「簡潔に言ってもいい?」


「もちろん」


「――末期ね」


 ぽつりと、彼女はつぶやく。


「表向きはともかく、体制は疲れ果ててる。うん、決して悪い人たちじゃない。性質(たち)も能力も及第点。――でもそれは、平時ならの話」


 淡々と、辛辣な内容が語られていく。その指摘は、ほぼ僕のそれに近い。

 平時の運営と動乱期のそれは、必然、異なるものにならざるを得ない。

 よくも悪くも、と僕は思う。

 今のロシアは、平時なのだ。

 少なくとも、平時と思いこもうとしている。


「甘いどころの話じゃないわ、現実から目をそらしてるとしか思えない」


 ……そもそも、だ。反政府組織とつながりっている疑いのある人物――つまりは僕――を、大して見張りもせず放置するものだろうか。

 もちろん僕たちは、裏で手を回しはした。

 けれども、一方でこうも思う。

 流刑地の人道的(・・・)な処置は、かなり甘くはないだろうか、と。


 僕ならどうするだろう。

 少なくとも、革命家崩れを放置するような真似はしないはずだ。

 流刑囚同士の接触を許して、なおも平気でいるような真似は。

 ……僕なら(・・・)

 浮かんだその考えを、僕は心の奥に沈み込める。


「――辛口だね」


 やっと出た言葉を、僕は伝える。


「その甘すぎるところを変えていかないと、話しにならないんだろうけど……」


 僕のいた世界ではもちろん、その試みは失敗した。

 極東、辺境の小国との敗戦。第一次世界大戦への参戦。

 皇太子の不治の病と、それに付け込み権勢を振るった怪僧。

 結果、王家(ロマノフ)の血統は断絶に至る。


 一家だけの話ではない。

 直系の人々もまた、例外ではなかった。

 僕の記憶が確かなら。

 あの血族ではほぼ同時期、7割方が死んだはずだ。

 大人も子供も、老人でさえも。

 ただひたすら、平等に。

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