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勇者様
「私と違って」
老人は言う。
「ユーリさんには才能がある。偉大な革命家の、少なくとも片鱗が」
これを素直に肯定するほど、僕も若くはない。
老人は果たして、何人もの若人にこう言ってみせたのだろう。
そう思うと、かすかな身震いが生まれた。
――身震い?
いや、これは素直に認めておこう。
これはたぶん、恐れだ。
さながら勇者の気分。
使い捨てにされる勇者が、そのことに思い至ったときの。
――もっとも、剣を渡され褒めちぎられたところで、僕に世界を救う理由などないのだけれど。
「買いかぶりですよ」
いくばくか冗談めかし、僕は答える。
「僕より腕っ節が利く人間も、僕より策略が得意な人間も。僕が知る限り、上には上がいる。少なくとも僕は、偉大と言われるほど自惚れてはいないつもりです」
純粋に行為の花束であれば、賞賛を受け取ったかも知れない。
けれども老人の花束は、匂いが不穏に過ぎた。
花の中身を確認せずには受け取れないほどに。
たとえるなら、血と火薬の匂いだ。




