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8年間
正直なところ、これは苦しい言い回しだった。
目の前にいる人間に興味が失せたこと。
どう婉曲に伝えたところで、それは非礼でしかないのだから。
その程度の社交を、僕は身につけていた。
日本からグルジア、そしてロシアに飛ばされた、この8年間で。
「――なるほど、承知しました。が、お忘れなきよう」
「と言うと?」
「了承するのは、本日の歓待に免じて、です。最初の話では、ひとつきりとは限定されていなかったでしょう」
やはりと言うべきか、お見通し、と言う訳だ。
こうなると、僕としてはどうにも苦しい。
己の気まぐれを苦々しく思いつつ、僕は答える。
「恩には着ません。――ただ、覚えておくことにします」
この言い回しは、老人のお気に召したようだった。
わずかに、セルゲイ氏から笑顔がこぼれる。
「あなたはまだ若い身だ。手練手管を身につける歳月は、この先にも残されているはずです」
「――そう言うことはジョゼファの、相方の守備範囲ですね。できれば、使わない道を歩みたいものです」




